昔話「タコ取り長兵衛」
むかしむかし、あるところに、毎日タコを取り、それを売って暮らしている タコ取り長兵衛という男がいた。
ある日、ずっと遠くのにぎやかな町まで タコ売りに行ったところ、大きな家の前に
《おれの家の娘をもらいたいと思う人は、だれでも中に入って来い》
という看板を見つけた。
長兵衛は
「俺のような者が行っても、相手になってくれるだろうか?」
と思ったが、そのまま入っていった。
「あの、看板を見て参った」
すると、奥から番頭が出て来て、
「おまえは、何と言う名前だ?」
「俺は、あしのくらの千軒町(せんげんちょう)から来た タコ取り長兵衛という者。
そこは、寝ていて朝日夕陽を拝むにいいところだ」
「それは、大した所さなあ」
と奥に取り次いでくれた。
親たちは それを聞いて娘を呼び
「ずいぶん遠い所のようだが、おまえはどうするつもりかな」
と聞いた。
すると返事をしなかった娘が
「行きます」
と言った。
長兵衛はよろこんで、迎えに来る日を約束して、その日は帰って行った。
いよいよ その日になった。
しかし、長兵衛からは 何の便りもない。
父は仕方なく、娘と荷物を荷車に乗せ、皆で海岸沿いを歩いて行った。
そして、道行く人に
「あしのくらの千軒町は、ここからなんぼくらいあるべか」
と聞いた。
「そりゃあ、ここからまだ三里も四里も(一里=約四メートル)あって、何もない 大変な所だ。
戻った方がええ」
娘を送ってきた人々はそれを聞いて
「そんなに遠くまでは、一緒について行かれねえ。戻った方がええ」
と言った。娘は
「私は行くと決心して返事をしたのだから、ひとりでも行く」
と言って、送ってきた人々と別れる事にした。
それから、道をたずねたずねしながら、やっと 夜に着いた。
千軒町といっても、海辺に一軒の家しかない。
その家も、四方の壁もない あばら家だ。
確かにこれなら、寝ていて朝日夕陽を拝めるわけだ。
長兵衛は
「よく来てくれたなあ。こんな遠い所だから、とても来てくれると思わなかった。迎えも行かなくてすまなかった」
と言って、たいそう喜んだ。
こうして、娘は長兵衛のあねちゃ(=奥さん)になった。
嫁をもらった長兵衛は、いっそうタコ取りにせいをだして、町に売り歩いた。
ある日、近くの町に行ってみると、大きな空き家に
《この家を買う人がいれば、三十文(=千円ほど)で売る》
という立て札が立っていた。
長兵衛は心の中で「こりゃあ安いぞ」と思ったが、通りがかりの人が
「この家は、ばけもの屋敷だよ」
と教えてくれたので、そのまま家に帰って来た。
「町に三十文で売るという大きな家があったども、ばけもの屋敷だというしなあ。三十文の銭コもないし、買えなかった。残念だなあ」
それを聞いたあねちゃは
「ばけもの屋敷だって、なんもおっかなくねえもんだ。おらの財布に三十文の銭コがあるから、いますぐ買って来い」
と言って、奥から三十文を持って来た。
そして、二人はその大きな家に引っ越した。
長兵衛は毎日、朝早くからタコ取りに行くので、あねちゃは毎日、大きな家で留守番しながら、針仕事をしていた。
ある日、突然 座敷の奥から
ドンドン、ドンドン
と床板鳴らして、六尺(百八十センチ)の坊主が、あねちゃの前に、でんと立ちふさがりました。
さすがのあねちゃもビックリして、ブルブルふるえていたが、黙って知らないふりをして、針仕事を続けていた。
すると、しばらくして
ドンドン、ドンドン
と、どこかへ行ってしまった。
あねちゃがホッとしていると、また奥の方からバタバタ音がして、今度は年取ったおばあさんが、赤い手ぬぐいをかぶって出て来た。
そのおばあさんは、あねちゃのそばにベッタリとくっついて
「あねちゃ。おらたちは化け物じゃねえんだよ。実は金の精だ。この家の中にある金を渡したくて、今まで何度も出て来たが、引っ越して来た人たちは、皆逃げてしまった。おまえにその金を渡すから。おらについて来い」
と言って、奥の座敷に連れて行った。
そこであねちゃが、おばあさんに言われて床板をはがすと、大きなかめが出て来た。
おばあさんが
「ふたをとってみれ」
と言うので、ふたを取ってみると、中にはピカピカ光る小判がいっぱい入っていた。
「なんとまあ!」
あねちゃがビックリしている間に、おばあさんはいなくなってしまった。
タコを取って帰った長兵衛は、小判のいっぱい入ったかめを見て大喜び。
二人は大金持ちになり、それから一生仲良く暮らしたとさ。
