戦前の蛸壺@神奈川鎌倉市

タコ地情報
発見日:2020年6月上旬

発見場所:オークションサイト

形態:雑誌切り抜き写真記事

古書店のオークションサイトで、珍しい写真を発見、購入。

昭和5年発行の雑誌からの切り抜き記事です。「鎌倉」という括りでの内容。説明文章は旧漢字かなを用いて右から左へ書かれていています。歴史を感じる貴重な一品。

ちなみにこの記事を書いた方は北田宏蔵(きただ こうぞう)さん。調べてみると「日本地図学会」第四代会長でした。

具体的には、上段が小坪海岸、下段がタコ壺漁の様子。写真は昭和4年撮影。

小坪

海水浴場としてまた史跡として有名な由比ヶ浜長汀の東端限る飯島崎の鼻を東に廻れば、三方山に囲まれた小谷別天地がある小坪の漁村がある。此の浦は一に鷲ヶ浦と呼ばれ、海中に浮かぶ奇岩は遠望される富士の霊峰、江ノ島、稲村崎の礁壁と共に雄大な風光を興特に鎌倉時代の遊覧地として顕われた。即ち建久四年七月時の将軍頼朝此處に遊んで漁人に釣せしめ又荘士に的を射らせて日の没するを忘れ(中略)等の記事が史上に見えて居る。

(記事より抜粋)

特に下段のタコ壺写真に目を奪われました。おそらくその日の漁を終えた蛸壺漁師が多数の蛸壺の中に座ってくつろぐ姿なのでしょう。蛸壺は同じ形の素焼きの壺。当時の豊漁加減が伺えます。

たこ壺

前述の小坪は鎌倉及び逗子方面に通ずる鮮魚の重要な供給地で特に章魚は有名である。殊に吾人の興味を惹くのはその捕獲具として写真に示されているような高さ約0.5m、口径約15㎝、胴径約21㎝くらいの素焼壺を用いる事である。既敷筒の斯かる壺(古くなって貝や藻類の付着するを要す)をその首部を縛って一條の網に附し岩石の海岸或いは島の付近に沈め、章魚が是を己の棲息所とするに及んで引き上げる。この際章魚は壺の動揺を敵の攻撃するものと思い敢えて出ようとせず。却って奥深く潜んで肢を張って體(からだ)を維持するから容易に是を捕らえることができるのである。

(記事より抜粋)

この地域では現在でも夏のタコ漁が行われています。網で引く方法ではタコの身体が傷んでしまうため、タコ壺漁で獲ったタコは貴重とされます。数もあまり多くないため大きな市場に出回るというより、個人規模の小さな商いとなるようです。

タコ壺に関しては、今は重い素焼きの壺よりも軽くて丈夫なプラスティック製が好まれますが、環境保護の観点から素焼きの壺が見直されているようです。